第1回 あんずの会 2000年5月18日

乳がんホルモンの治療

乳腺の増植分化には種種のホルモン(エストロゲン、プロゲステロン、プロ ラクチン、グルココルチコイド等が複雑に関与しているが、ヒト乳癌の発生 増植との関係が明らかにされているのはエストロゲンのみである。若くして卵 巣摘出を受けた婦人の乳癌羅確患率は卵巣機能が正常な婚人の100分の1である。 また、初潮が早く閉経が遅いほど、つまり、エストロゲンにさらされている時 間が長ければ長いほど乳癌の発生率は高くなる。これらの事実が、エストロゲ ンが乳腺からの癌の発生を促進していることを示している。
ところで、乳癌の一部はホルモン依存性を持ち、その増殖がステロイドホル モン特にエストロゲンに依存することがわかっている(乳癌の一部は女性ホル モンであるエストロゲンによりその進行が促進される)。これは一部の乳癌細胞 表面にはエストロゲンと結びつくエストロゲン受容体があり、エストロゲンと この受容体が結びつくと細胞増殖を促進する遺伝子の働きを増強し、次々に乳 癌細胞を培やして行く。従って、エストロゲン受容体を持つ乳癌細胞にはホル モン療法が有効である。また、プロゲステロン受容体(PgR)の有無はエストロ ゲン受容体(ER)陽性乳癌のホルモン依存性をより正確にする。つまり、これ らのホルモン受容体陽性の乳癌にはホルモン療法が有効となる。

乳癌のホルモン療法は19世紀未より行われている。最も古い癌の治療である。 ホルモン治療は、1)外科的ホルモン治療と、2)薬による内科的治療に分け られる。

1)外科的ホルモン治療(有効率%) ・卵巣摘出術(33%):卵巣由来のエストロゲンを低下させる。 ・副腎摘出術(32%):副賢由来のアンドロゲンを低下させることで工スト ロゲンを低下させる。 ・下垂体摘出術(36%):下垂体由来の黄体ホルモン放出促進ホルモンを低 下させることでエストロゲンを低下させる。 副腎摘出術閉経後、卵巣摘出術は閉経前または閉経後1年以内に行われてい た。 しかし、手術侵襲や術後の副作用のためこれらの手術療法は最近は行われな くなった。
2)内科的ホルモン治療(有効率%)
・タモクシフエン(3296)(ノルバデックス:抗エストロゲン剤):構造が エストロゲンに似ており工ストロゲン受容体に結びつくことで、エスト ロゲンの作用を低下させる。 ・LH‐RHアゴニスト(ゾラデックス、リユウプリン)(40%):下垂体由 来の黄体ホルモン放出促進ホルモン類似物質でその受容体を低下させゴ ナドトロピン、ステロイドホルモンを低下させ、エストロゲンを低下さ せる。閉経前乳癌が適応となる。 ・アロマターゼ阻害剤(アフエマ)(31%):副賢のアンドロゲンをエスト ロゲンに変える酵素であるアロマターゼを阻害しエストロゲンレベルを 低下させる。 ・酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA:ヒスロンH)(32%):複合的な 作用機作を持つ。